壁画の仕事をめざすなら、まず個性以前に基本技術を!

毎年多くの美大生、専門学校の就職活動生が会社説明会にやって来ます。 必ず、作品品または作品集とスケッチブックを持ってきてもらうのですが、いつもそれを見て唖然としてしまいます。「本当に絵が好きなの」「本当に学校に行ったの」と言いたくなります。何とか社内で訓練して1年以内に戦力になりそうな学生は5%位でしょうか。その現状に、驚きというよりも学校の教育に憤りさえ感じます。一般では、美大卒と言うだけで絵がうまいと信じている人が多いのですが、現実は大きくかい離しています。

学生達によると、「リアルな表現をしても評価されない」とか「個性がないと・・・」という言葉が返ってきます。どうも、学校(特に美大)での勉強の目標が見つからないまま、卒業を迎えているようです。最近の美大は、入試倍率もかなり低くなっているようです。それもそのはず、卒業しても就職率が著しく低いのですから。特に、造形系(絵画、彫刻)は、特にそうです。 就職の期待が低いから、勉強の目標がなくなったのか。美大卒のレベルが低くなったから、求人も減ったのか。

時々、アメリカ、メキシコ、ブラジル、中国などの外国人も面接にやって来ます。それから、外国の美大やアートスクールを出た日本人もやってきます。彼らの話を聞くと、特にアメリカでは、ビジネススキルの基礎をびっちり教えてくれると言います。

ふっと、疑問が頭をよぎります。彼らは何をめざして美大を選び、美大は何に応えようとして存在しているのか。双方が空回りしているように思えてなりません。

個性は、自分自身の証しですし、私ももっとも大事にしています。私には、個性について2つの考えがあります。

その1.
20才位で個性って簡単に出せるのかな。家庭や学校から受け身の立場で刷り込まれて生きてきた中で、個性とは多分誰からの一方的な強い影響に過ぎないのではないかということ。人生の最初の20年間って、生まれた環境から受ける影響そのものであり、保育器の中で生きるようなもの、自らはあまり選べません。その意味では、自分自身を振り返っても、その20年間が帳消しになる時、つまり40才過ぎてからようやく自分らしい個性が出てきて、自分自信に誇りを持てるようになった気がします。いずれにしても、何の技術もスキルもなく、社会にも出て働きもしないで、個性、個性って何か滑稽な気もします。

その2.
絵を描いて個性を出すとしても、まずは基本的な技術やスキルがなければ、どうやってその個性を表現するのでしょう。以前、かの人形作家・辻村ジュサブローさんとお話する機会があり、感動する言葉に出会いました。「職人芸を極めると、その高い技術が新しい創造を生み出す」と。人に喜んでもらおうと技術やノウハウを追究する。そして、その技術の高みがまた新しい創造を生む。技術と創造個性とは表裏一体ののように思えてなりません。

絵の仕事をめざすなら、最初から個性、個性と焦らずに、きちんとした技術を身に付けて欲しいですね。そうしなければ、最初の関門でアウトです。まずはプロの仕事に対応できる技術とビジネススキルを身に付け、仕事としての絵を描いてみる。そして、いろんな経験や出会いの中で自分らしさは自然とにじみ出てくる。今の学生さんたちを見ていると、スタートラインに着く前に砕け散っているように思えてなりません。

個性、個性っていう割には、個性化教育は我が国ではほとんど行われていません。偏差値教育やナンバーワン教育は、反個性主義にほかならないのですから。個性というなら、ナンバーワンではなくオンリーワン教育であるべきでっしょう。

いずれにしても、仕事で絵を描くということは、クオリティと納期は初歩的な問題。4年間で、ポートフォリオが10ページ程度では話になりません。学校の課題以外に作品が無いというのも、あまりに情けない。文学部や経済学部などのいような(失礼!)つぶしのきく学科と違い、技術的で専門的な進路を選んだ以上、専門技術を身に付けなければ何の役にも立ちません。学校ではあまり絵を描いてきませんでしたが、入社した暁には一生懸命頑張ります、ではノーです。

学歴、卒業証書は、所詮紙切れ。そんなものクソ食らえ、と言える実力をつけましょう。また、自分のやりたい仕事をもっと早い時期に見つけ、その職に就くためにどの程度の能力が必要なのかも早く知ったほうがいいと思います。

貧乏会社でありながら、壁画プロ養成所「かすかべ壁画塾」やインターンを始めたのは、今の学校(特に美大)に対する不満と、アートを目指す学生さんたちへエールを送る気持ちです。 社会のためにアートを生かす職業は、日本ではまだあまり育っていませんが、現代の社会のトレンドから無限のニーズと市場を感じます。これからの時代は、まさに「五感産業」の時代であると、全身で感じます。学校も学生も早く目覚めて欲しい!声を大にして叫びたいです。