大きくなって、戻っておいで!
離職率が高いという汚名
ビッグアートは、創業して今年で26年目になります。
振り返ってみると、
実に多くの人が社員またはインターン(学生研修生)や有期実習訓練生として入ってきて、
そして巣立って行きました。
アートの仕事は、職人と同じでいずれは独り立ちを目指す人が一般的です。
一般職とは異なり、離職率は高い傾向にあります。
職人を抱える経営者の悩みはいずこも同じで、社員が一人前になったら独立または転社していくことです。
入社して2~3年はまだ見習いで戦力にならず、ようやく戦力になりかけたら去って行く。
これでは、人材を養成しているだけで終わってしまいます。
しかも、当社は経験者ではなく新卒の学生ばかりを受け入れてきたので、
いつも社員の平均年齢は23~25歳でした。
社員が次々と独立していくのは悪いこと?
同業者を見渡すと、仕事が細かく分業化されていて多能工が育たない仕組みが出来上がっているようです。
一人で全行程を担当したら、仕事の全容を覚えて独立してしまうからです。
しかしそれは諸刃の剣です。
単能工では単純労働ばかりでモチベーションが上がりにくく、マンネリ化してしまいます。
勤続年数は長くなっても、戦力としても期待できません。
職人が、20年も30年も社員として企業にとどまるのは不自然です。
当社では、最初の2年間で徹底して仕事の流れと必要な技術の習得して、
一人で完結できるように厳しく指導してきました。
極端な例を言うと、最短2年で独立も可能なのです。
実際に、中途入社してきた人の何人かは2年位で独立していきました。
人材の安定確保のために、1999年から2006年まで「かすかべ壁画プロ養成所」を設立して次々と新人を養成しました。
インターンの受け入れも、毎年積極的に行いました。
まわりの同業者の経営者からは、次々と社員を育成して独立させるのは馬鹿げているとよく言われました。
一般的に平均勤続年数が短い会社は、定着率の低いダメな会社と言われます。
私自身、長い間自己矛盾に悩んできました。
社員にはできるだけ長くこの会社で働いてもらいたい。
しかし、早く戦力になってもらうには仕事の全容をつかんで早く自立して欲しい。
しかし、仕事の全容がわかったら、独立に目覚めてしまう。
当社を設立した頃から15年間位は、壁画や立体造型の業界は活況があり、
竹の子のごとく独立起業する時代でもありました。
当社でも人の出入りが活発でした。
私も経営者として大きく成長したい!
しかし、人が辞めていくのはいつも憂鬱なものです。
そんな時、以前ラジオで永六輔さんが言った言葉がいつも蘇ってきました。
「日本が狭いと思ったら広い世界に出て行きなさい。でも広い日本に気がついたらまた戻ってきなさい」
そして、こんな勝手な解釈をすることにしました。
「この子たちは、ここを出て行くのではない。よそに修行に行っただけだ。そのうちに、戻ってくるかも知れない」
そう、私も会社もその間に大きく成長して、彼らを再び迎え入れられるように頑張ろう、と。
そう気持ちを切り替えると、「彼らは去って行くのではなく、巣立っていくのだ」と思えて
清々しく、むしろうれしい気分にさえなりました。
大きくなって、いつか戻っておいで!
その時君たちが思いっきり活躍できるように、準備して待っているよ!
その後私の会社も何度も危機を迎えましたが、それが励みになりました。
アートの業界もこの数年低迷が続き、業界でも多くの倒産・廃業が目立ちました。
フリーで活動していた人たちも、転業してすっかり姿を消しました。
私も、やっと育ったと思ったら辞めていくことの繰り返しに疲れてきました。
私も来年で70歳を迎えます。
愕然としました。
若い人に負けないバイタリティだけが自慢でしたが、
やっとこれからだと思ったらまた振り出しに戻されることの繰り返しが何度も続くと応えます。
それよりも、自分の目標に生きている間に届かないかも知れないという焦りを感じ始めていました。
この5年間は、ビジネスについて、会社経営について必死にひたすら学び、研究しました。
そして、これまでのような外部要因に左右される状況からようやく抜け出して
少しずつ着々とゴールに近づいていける状況ができてきました。
お帰り!
数年前から新しい変化が出てきました。
18年前に夫の転勤で辞めていった経理のパートさんが、3年前に会社に戻ってきました。
22年前に辞めていった凄腕の子が突然電話してきて、この9月から復帰することになりました。
その他にも、長い間私と音信を絶っていた人たちから続々と連絡があり、情報交換をしています。
彼らが辞めた当時は22~30歳だったので、あれから15~20年経って今は30代後半から40代後半です。
これはスゴいことです。
一番働き盛りで、これからまだ20~30年は大活躍できる頼もしい世代です。
遠くなったゴールが、一気に近くに見えるようになりました。
以前の10年計画が、3年計画に前倒しできるのはスゴい加速度です。
新しい働き方を目指して
彼らが戻ってきても、彼らに社員として頑張ってもらうわけではありません。
今度は、皆が自立した経営者としてこの業界を牽引する存在になってもらいたいと思います。
かつては、私と衝突したり反発して出て行った彼らが元の古巣に戻るのではなく、
過去の概念にとらわれない新しい関係のエクセレントパートナーになってくれることを期待します。
「お帰り!」と言うたびにワクワクして、元気が蘇ってくる今日この頃です。